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昨日、特別な夢を見た。
しかし、ほとんどその内容を覚えていないのだ。
それなのに頭の端に残る夢の切れ端が揺れ動くたびに、僕の鼓動と同期して心地よい振動を刻んでくる。「おまえはまだ知らなくてもいい、でもお前のための物語なんだ」言わんばかりに。
それが、心地よい半面、見えない苦痛に覆われ、嫉妬にも似たいら立ちになっていた。嫌なものだ。隠されているわけでもなく、隠しているわけでもないのに誰かに試されている気分になる。
そんないら立ちを取り払えないままに、今日が終わろうとしている。
僕はいま新宿にいる。
いま付き合っている彩夏(さやか)と待ち合わせをしたのだ。待ち合わせの10時まではまだ10分ほどある。お互いに時間にルーズではないが、時間前に着くのはいつも通りの僕の方が先だ。これは、僕が彼女にできるもっとも簡単な愛情の現れだと思う。
しかし本当は人を待たせてる時の何ともいえない気まずさが耐えられないというのが、発端にあるのだが。
今夜は彼女から夕飯に行こうとメールがきた。
特に記念日であるわけではない、強いていえば、ボジョレー・ヌーボの解禁日であるくらいだ。それと僕が特別で”あろう”夢をみたという以外は。
そんなときだった、時間より少し早く彼女は姿を現した。いつものように少し小走りだったのをみて、何故かホッとした。これは僕だけの彼女を見分ける大切なポイントでもあった。
「ごめん、待った?!」
これはいつものセリフだ。回を重ねる度に口癖になっているのか。目線は足元の水たまりに目がいっていた。
「さっき来たところ。」
これもいつもいうセリフだ。一応、本心でいっていると思うが、彼女はどう思っているかは気にあるところ。
「急に呼び出して、ごめん。ちょっと飲みたい気分になって。」
「何かあったの?!」
笑顔が似合う分、悩む姿が似合わない彼女の顔に苦笑いの笑窪が浮かんだ。
「ぅ~ん、食べながら話すっ。」
「そっか、じゃ何食べるか」
「もつ鍋がいい!」
今夜の冷え具合からも大賛成だった。
僕らは雨の止んだ新宿の夜を飲み屋があるいつもの方角へと向かった。まだ週半ばだというのに酔いつぶれたサラリーマンが道を横断し、ずうずうしい位に話かけてくる呼び込みが進行方向を妨害している。
そんな中でも彼女はシッカリと目を光らせていた。目的のもつ鍋屋を見つけると引き寄せられるかのように歩み寄っていた。僕はそれを追うように彼女の後ろを歩いくだけだった。
店に入ると中は個室で区切られていてなかなか居心地のよい空間だった。よいものを見つけると気分がいいものだ。彼女も一緒でコートとジャケットを脱ぐと気持ちがいいくらいに背伸びをしていた。
「ふぅ、最初はビールでいい?」
「うん、あとから揚げも!」
「相変わらず好きだね~~。」
からかうような口調であしらうが、彼女もかなり好きなのを僕は知っている。次々に頼まれていく注文を耳で追いながら店員が復唱するのを待っていた。
一通り頼み店員が去った後、僕は彼女の髪が伸びたのを気にしながら彼女にとっての今日の特別を聞いてみた。
「今日何かあったの?」
「うん、それがね。…。」
「変な夢を見たの。それがね。覚えているのが最後の方だけなんだ。」
ドキッとした。別にそれが特別なわけではない。誰だって夢は見るし、起きたら忘れる。ただ、それだけで人を呼び出したりはしないだろうけど。
「その最後の方でね。あなたがいっていたの。…。」
「『今日から一緒だよね。』って。」
なんだか拍子抜けだった。それは、いつの間にか彩夏の話す夢が、僕の夢の内容であったかのように期待していたからなのだろうか。それにしてもなんで、こんなことくらいで呼び出したのだろうか?当たり前のこととは言わないが、それでも僕らは付き合っているのだからそのくらいの事で呼び出したりはしないだろう。少なからず、今まではなかった。
「ぅん、別に変な夢じゃないよ。ただ、、」
今日はやけに間をあけて話すせいか、身を乗り出すように聞いている自分がいた。
そんなときだ。店員が威勢よく、飲み物と料理を持ってきた。
こうなってしまうと、とりあえず話は後だ。目の前のビールに今日のおつかれを祝い、空腹にねじれたおなかを戻すように箸を手にとった。
頼んだ料理もほとんど揃い、気づくといつものように会社の話や今日の寒さに対する不満、そしてから揚げの歯ごたえに感嘆の声をあげていた。
話題を出し切ったのか。彩夏がため息をつき、一息をいれた。
そういえばと思い、さっきまでの話。そう、特別な夢の話がふいに横切った。
彼女に目を向けるとうつむいていて少し酔ったのかと思ったが、ビールは2杯目だ。これで酔うような僕らではないのは予め断っておく。どうしたのかと思い声をかけると、彩夏は顔を上げさみしげな眼を広げて僕をみてきた。
「ねぇ、私たちどうなるのかな?」
「私たち、一緒にいられるよね?」
その声はひどく弱弱しく、まるで迷子になって声を枯らした子犬のようにも思えた。
「なんでそんなこというんだよ。その夢のせいか?」
何にムキになったのだろう。やさしく『平気だよ。』とか『心配しなくていいよ。』とかもっと言葉はあったと思うのだが。そのときの自分はその言葉を選んでいた。
「そうなんだけど…。」
さっきまでより、少し長い間が入ってきた。
「なんだか、逆に不安になっちゃってさ。このままの二人でいることって一緒にいることとは違う気がして。二人が一緒になることってどういうことなのか分からなくなってさ。」
なぜか言い訳がちな口調だったけど、その言葉の意味は重々分かる。幸せすぎるときほど、足元をすくわれるものだし、不幸なときほど、大きな幸せは訪れるものだ。その大きさは人によるところだけど。
つまりは、今日彩夏がみた夢で一緒になる二人がいたが実際は何も進まないこの状況に不安になって逢いたくなったのだろう。彩夏のことだから、お腹がすいたとかいう理由しか思いつかなかったのだろうが、それが逆にいつもどおりで思いつめた心に気づくことができなかった。
そんな後悔が頭をよぎったままでいたら、話が途切れてしまった。
「平気だよ。確かに毎日忙しくてこうやって逢う時間もあまりないけど、やりたいことを残さないように今は仕事にプライベートに時間が必要なんだから。それに近くにいすぎたらきっと、小さな世界でいきることになるしさ。それより、ある程度距離があってもいつでも支え逢える距離にいるいてくれる安心感の方が大事なことだと思うよ。それにさ、まだ若いんだしさ。」
なんて遠回しな言葉だろう。まるで、一緒になる気がないような発言ではないだろうか。
「ぅん、そうだね。逢いたいときにはいつも逢ってるもんね。」
何よりの温かい言葉だ。慰められたの僕の方のようだった。
その後は何を話したのかよく覚えていない。
当たり障りのないというのが正解なのか、僕らは今日起きた事柄をもう一回振り返った。と思う。
僕らはひと時の二人の時間に終わりを告げ、終電の時間に煽られるように家路にむかった。
「じゃぁね。」
いつもように別れを告げた。だが、その言葉は僕の方が早く発したことが不思議を違和感となり、辺りにひろまった。
「うん、じゃぁね。」
その違和感を消すためのように彼女から返事が返ってくる。今日はこんなことばかりだな。なんだか煮え切らないように僕は山の手線のホームへ向かった。
今日は不思議な日だった。
というか、ひどく疲れた。
朝から日の変わる深夜まで僕は誰かの投げ込んだ箱に振り回された気がする。それにはカギがかかっていて、そのカギは開かずのまま。そこへヒントをくれるかのように表れた彩夏に逆に課題を突き付けられたのだから。
もう、眠りについて明日の朝、また考えることにする。明日になれば、朝日が暗くなった気分を晴らしてくれるだろうから。そうだ、早めにでてあったかいコーヒーを飲んでいこう。
そう心に決めて今日は眠りにつく。
一応、”おやすみ、ワイン解禁らしい。今度いこうね。”とメールを送っておいた。
返事を待たずに、睡魔に襲われたので。ここで。