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村山由佳を愛するブログ。
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「僕は、あの人の匂いが好きだった。」

抱き合った時だけ感じる彼女の髪の毛の香り、隣で話している時に感じるオーデコロンの香り、ひどく落ち込んだ時にだけ吸うハッカの香りがするタバコの香り。どれ一つとして、嫌いなものはなかった。そ
して、何よりどの香りも彼女からしか感じることができなかった。

なのになぜ、こんなことになったのだろう。
今、隣にいるのはそんな心を落ち着かせてくれる彼女の匂いとは程遠い、まるで縄張りを争うかのような香水の香りをただ酔わせた女性だった。出逢って間もないこの女性は、人生に対してひどく落胆的で、彼女とは対照的な性格であった。どこまでも対象的なこの女性に逢う度に僕は彼女の思い出に浸らずにはいられなかった。


そんな彼女とは、出逢ったのは4カ月前であった。

社会人になって3年目の春だった。
今まで春が始まるのを心待ちにしたことなどない僕は、例年通りに会社と家を行き来する日々を繰り返していた。しかし、僕を除く一般的な人たちは、春には多くの出会いを求め、恋を求め、高鳴る気持ちに心を躍らせていた。気づけば、そんな世間の波が僕の所まで打ち寄せてきていた。
僕は会社の友達に誘われて、合コンにいくことになった。とはいえ、単なる人数合わせである。急な参加者の欠席により、時間のあり余っている僕へお呼びがかかったのだ。そう、決して行きたがっていたわけではないことをココに明言しておく。

「どうせ、彼女いないんだろ?!楽しめよ。」

恋愛に疎い僕に心ない一言をかけてきた。
こいつの名前は、山本だ。今日の男性陣の主催者であり、僕の会社での同期であり、こういった飲み会の大先輩である。特に嫌みなどこもっていないのだろうが、山本の放つ言葉には相手を見下したようなニュアンスがよく見受けられる。それ故、会社でも若干の距離を置かれているのだが、その距離を大きな歩幅で簡単に乗り越えてくる度胸は、彼の大きな長所であった。
山本の言葉に苦笑いをして軽くうなずくと、僕は主催でもないのに几帳面にも印刷してきた目的地の地図に目を落とした。そのお店は駅から近く、すぐにお店の看板が見えてきた。

駅から程近いこのお店は、飲み屋ともレストランともいえるようなおしゃれな作りになっていた。
お店に入ると3人の女性たちが既に待っていた。時間通りとはいえ、待たせてしまったことをお詫びして席に着くと、山本が店員を呼びよせた。

お店は人で埋まってはいるものの、時間はゆったりと流れていた。ビールを人数分注文をするとすぐに飲み物がきた。乾杯はビールと決めたわけではないが、なぜかビールが似合う気がした。

これもお決まりなのだろうか、すぐに自己紹介が始まった。
向き合うように並んだ女性たちはとても元気がよく、一見女子大生であるかのような陽気さが見えた。それは僕にとって少し戸惑いでもあった。そんな中、一番端でゆっくりと自らの名前を告げた女性がいた。

「村上 麻衣(むらかみ まい)」。

それが彼女の名だった。人の名前を覚えるのが苦手な僕は、他の女性の名前をうる覚えになりながらも彼女だけはしっかりと覚えたことが分かった。

何がそうさせたのだろうか。彼女の声や、仕草、言葉の節々にある威厳のような口調だろうか。わからないままに僕は彼女の方を見た。にこやかな表情がよく似合っていた。
短めにまとめられた髪の毛は、彼女の顔を包み込むように頬に掛かり、大きくみえる目は彼女が見据える先をしっかりと教えてくれた。

彼女の視線を追っていた僕に順番が回ってくるとすっかり上の空になっていた僕は、ただただ名前と、最近ハマっているコーヒーの話をした。

コーヒーには眠気防止や疲労回復だけでなく、様々な抑制効果がありその科学的な根拠からも学者からも多くの期待を受けている。またその味、栽培方法から好みが分かれるため、古くから経済的にも大きな注目を受けているのだった。
そんなコーヒーにハマっている僕は、雑学こそ浅いが飲んだコーヒーの種類はそれなりに自慢できるほどではあった。それをどれだけ、伝えられたかは分からないがそれなりには彼女達の関心を得ていたようだった。

しかし、彼女のだけは違ったようだった。
僕の名前を聞くと目線を反らし、少し考えた後でその大きな目で僕を見直してきた。特に不思議なことではないが、彼女の視線を追うようになっていた僕には至極気になる事だった。

自己紹介が終わると、まるで結婚式の馴れ初めを話すかのように山本から僕らの話をしてくれていた。彼がこんなにも熱心に働いている姿を見たことがなかった。それくらいに彼は、よく働いていた。小さなネタでも大げさなくらいに盛り上げ、大きなことは事件でもあったかのように声をひそめて話していた。話し手としての経験は頼りがいがある程だった。

山本の働きの甲斐があり、時間があっという間に過ぎていった。
終電までは時間があるが、仕事の時間を見極めるように話を打ち切るとそれぞれ帰路に向かい別れを告げた。山本の今日の働きぶりが明日以降、彼の仕事評価につながることはないが、今日の彼の働きは彼の積み重ねてきたの一つとしてまた積み上がったことには違いなかった。

空は晴天だった。月ははっきりとその姿を現し、ネオンに栄える街をあざ笑うかのように僕達を照らしてくれていた。帰りの路線が違う僕は、来た道を帰る山本達と別れ、人波の流されるかのように大江戸線の改札に流されていった。
春にしては冷え込む空気が、顔に当たる風を煩わしく感じさせ、歩く歩幅を広げると後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。始め僕が呼ばれているのか分からなかった。確かに僕の名前を呼んではいたが、その呼び方で呼ばれていたのはもう何年も前で中学生の頃だっただろうか。

驚きを隠せきれずに振り返るとそこにいたのは、村上麻衣だった。
なぜ彼女がそこにいたのだろうか。いや、彼女がそこにいたのはいいとして、さっき僕を呼んだのは彼女だったのだろうか。それを確かめるように僕は、彼女に話かけた。

「いま、何て呼んだ?」

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