村山由佳を愛するブログ。
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その日は、ひどく風が強く、秋の名残をかき消すように街全体を吹き付けていた。
電車に揺れる体を支えるように扉に寄り掛かり空を眺めていると、雲がいつもより早く、駅に停まる度に置いていかれるような小さな寂しさを感じていた。追いつく気のない電車に促されたのか小さく欠伸をすると隣から、小さな拳が飛んできた。頭を軽く小突かれると同時に、せっかくの欠伸が止まってしまったのをみて、満足気に微笑むと彼女の手を広げ、今度は頬をたたいてきた。彼女は何一つ言葉を発しなかった、ただいいたかったことは分かった。
”二人でいるときに欠伸をするとは、何事だ” と。
そんな言葉を置いて、彼女はまた電車の外に目を向けた。
彼女の名前は、高橋 紗耶香(たかはし さやか)。
年齢は、僕と同じ24になる。一応補足しておくと独身だ。
少し短気だが心配性なためかすぐに謝る癖が強いのか、どちらかというと頼りなさ気に見えるのは彼女の第一印象だった。そんな彼女には、口よりも手が先に出るという悪い癖があり、さっきみたいに何かと小突かれることが多い。彼女なりのスキンシップというやつだ。
そんないつものスキンシップに「ごめん」と一言付け加えて、次の駅を告げるアナウンスが流れるのを待った。
少しすると聞きなれた駅員の鼻につくアナウンスが、流れてきた。
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
今日は、二人の記念日になる。
ありがちなのかもしれないが、二人が「出会った日」の記念日だ。ただ、少し違うのは僕らの出会いは15年前の10歳のころになる。小学生の頃に、席替えというイベントを機に出逢ったのだ。子供の僕にとっては、席替えはあまり好きではなかったせっかく築き上げた友情や、居心地のよさをまた0から作り上げないといけないからだ。
普通の男なら、かわいい子の隣になりたいとか、人気者の近くがいいとかいう素直な感情に流されるのかもしれないが、僕は何より自分の居心地の良さを求めた。それが、一人ぼっちであったとしてもそれはそれでよかった。そういう意味で僕は、大きな窓と風が感じられる窓際の席を好んで選んだ。だから、くじ引きで廊下側の席になった学期には早く授業を終えて、ベランダで風を浴びることがささやかな楽しみだった。
彼女と出逢ったときは、そんな廊下に面した日の当らない席に座らされていたときだった。
彼女は、隣の席に女の子らしい小柄な体格で、しっかりと黒板の文字に目を向けていた。僕はその彼女のさきにある窓に心を奪われてはただ時間が過ぎるのを待ち、周りのペースに合わせて教科書をめくるkとに努めていた。そんな状態だったからか、ほとんど言葉を交わすこともなく朝と帰りの挨拶程度だった。
僕らの記念日となる「出会い」は、それから2か月ほどたって算数のテストの時間だった。
テストの時間が始まると、僕はいつものように適当に回答を書き並べ、半分以上の時間を残し、睡眠に入ろうかと腕枕に頬を埋めると、隣に頭を抱えた彼女がいた。いつもまじめに黒板に目を向けて、ノートをとる姿しかみていなかったためか、勝手に勉強が好きで頭のいいのだろうなと思っていた。しかし、そのテストの時間で彼女が安堵の顔を見せることはなかった。そして、僕も睡眠に入ることなく彼女の横顔を見つめていた。テストが終わると、いつものようにみんなが、テストの感想と出来を発表しあったいた。僕はいつもと違い、隣でうなだれる彼女に声をかけていた。
いま思うと、なぜ声をかけたのかは分からない。ただ、その時は窓の外の空気よりも、眩しいくらいの日差しよりも、友達の自慢より、彼女の不安が、彼女の横顔が気になっていたのだ。声をかけるとうなだれたように、僕の方を見上げてきた。その姿は、子供ながらに守ってあげたいと思えるくらいに小さくみえた。
「何!?」。
冷たい口調で、ただ一つ言葉を放つと彼女は、机の中からノートを取り出しテストの見直しを始めた。ななんだか悔しさを覚えた僕は、テストので唯一記憶に残っていた難問(だと思う問題)について話を始めた。(自慢ではないが、僕は勉強はそこそこできた。というより、教科書にある問題ならほとんどできた。)すると、さっきまで大事に抱え込むようにしていた不安を投げ捨て、ノートを取り出してその問題の解説を始めてきた。
不思議だった。
何が楽しいかわからないが、彼女との会話がこのまま続けばいいと思えた。勉強など、ほとんどしたことがなく、ノートなどとったことのない僕にとって、ここでの会話ほど浮世離れした感覚はなかった。たぶん、あの時は彼女が何に共感したのかもわかっていなかった。ただ、あの時の彼女が抱えた不安と弱さが、ひどく愛おしかった。今覚えば、彼女の横顔には女性としての魅力を備えていたのだろう。30分そこそこの時間、彼女が見せた横顔に一目惚れしたのだ。
それからは、僕らは授業の度に言葉を交わした。もちろん、朝も帰りの挨拶も。
学校が終わる僕はサッカークラブに、彼女は学習塾に通うため、それぞれの道に足早に帰っていくことが多かった。しかし、時間があるときは図書室や、みんなが帰って空席となった窓際の席に座り、宿題に手をつけた。それは、一人では感じられなかったなと、確かな充実感となって僕を魅了していた。
僕は勉強だけでなく、時間があるときには将棋を教えた。そして、彼女からはチェスを教わった。小さかったが、そんな一つ一つが思い出となって積み重なっていくのが見えた。
僕らは、あのテストの日を境に始まった。だから、記念日はあのテストの日。
運動会も終わり、読書の秋だと課題図書の読書感想文に追われていた日。そして、いま隣で外の景色に心を奪われている彼女の誕生日だ。
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
電車のアナウンスが終え、徐々に席を立ち始めた人たちを横目に僕らは、手を取り合った。
焦ることはない、これから今日を一緒に過ごせるのだから。
さっき、欠伸したことは失態だったが、早起きした代償だと思って、これから挽回していこう。
電車がライン通りの定位置に停まり、この駅が終点を告げると順々に両脇の戸口が開き、人波が引きづり込まれていった。
人波が弱まり出し、新しい乗車客が入ってきたところで僕らは立ち上がり改札に向かった。
改札で肌寒い風が吹き込んでくるのを感じ、朝から吹きつかる風に秋の終わりを感じた。
隣でかよわく歩く彼女が気まぐれな風に飛ばされないように、訪れてくる冬を二人で温めるように、僕は少し背伸びして歩いてみせた。このときできる精一杯の背伸びを。
きっと、彼女はそんな姿をみていなかっただろう。
僕が彼女の気持ちを見れていなかったように。
電車に揺れる体を支えるように扉に寄り掛かり空を眺めていると、雲がいつもより早く、駅に停まる度に置いていかれるような小さな寂しさを感じていた。追いつく気のない電車に促されたのか小さく欠伸をすると隣から、小さな拳が飛んできた。頭を軽く小突かれると同時に、せっかくの欠伸が止まってしまったのをみて、満足気に微笑むと彼女の手を広げ、今度は頬をたたいてきた。彼女は何一つ言葉を発しなかった、ただいいたかったことは分かった。
”二人でいるときに欠伸をするとは、何事だ” と。
そんな言葉を置いて、彼女はまた電車の外に目を向けた。
彼女の名前は、高橋 紗耶香(たかはし さやか)。
年齢は、僕と同じ24になる。一応補足しておくと独身だ。
少し短気だが心配性なためかすぐに謝る癖が強いのか、どちらかというと頼りなさ気に見えるのは彼女の第一印象だった。そんな彼女には、口よりも手が先に出るという悪い癖があり、さっきみたいに何かと小突かれることが多い。彼女なりのスキンシップというやつだ。
そんないつものスキンシップに「ごめん」と一言付け加えて、次の駅を告げるアナウンスが流れるのを待った。
少しすると聞きなれた駅員の鼻につくアナウンスが、流れてきた。
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今日は、二人の記念日になる。
ありがちなのかもしれないが、二人が「出会った日」の記念日だ。ただ、少し違うのは僕らの出会いは15年前の10歳のころになる。小学生の頃に、席替えというイベントを機に出逢ったのだ。子供の僕にとっては、席替えはあまり好きではなかったせっかく築き上げた友情や、居心地のよさをまた0から作り上げないといけないからだ。
普通の男なら、かわいい子の隣になりたいとか、人気者の近くがいいとかいう素直な感情に流されるのかもしれないが、僕は何より自分の居心地の良さを求めた。それが、一人ぼっちであったとしてもそれはそれでよかった。そういう意味で僕は、大きな窓と風が感じられる窓際の席を好んで選んだ。だから、くじ引きで廊下側の席になった学期には早く授業を終えて、ベランダで風を浴びることがささやかな楽しみだった。
彼女と出逢ったときは、そんな廊下に面した日の当らない席に座らされていたときだった。
彼女は、隣の席に女の子らしい小柄な体格で、しっかりと黒板の文字に目を向けていた。僕はその彼女のさきにある窓に心を奪われてはただ時間が過ぎるのを待ち、周りのペースに合わせて教科書をめくるkとに努めていた。そんな状態だったからか、ほとんど言葉を交わすこともなく朝と帰りの挨拶程度だった。
僕らの記念日となる「出会い」は、それから2か月ほどたって算数のテストの時間だった。
テストの時間が始まると、僕はいつものように適当に回答を書き並べ、半分以上の時間を残し、睡眠に入ろうかと腕枕に頬を埋めると、隣に頭を抱えた彼女がいた。いつもまじめに黒板に目を向けて、ノートをとる姿しかみていなかったためか、勝手に勉強が好きで頭のいいのだろうなと思っていた。しかし、そのテストの時間で彼女が安堵の顔を見せることはなかった。そして、僕も睡眠に入ることなく彼女の横顔を見つめていた。テストが終わると、いつものようにみんなが、テストの感想と出来を発表しあったいた。僕はいつもと違い、隣でうなだれる彼女に声をかけていた。
いま思うと、なぜ声をかけたのかは分からない。ただ、その時は窓の外の空気よりも、眩しいくらいの日差しよりも、友達の自慢より、彼女の不安が、彼女の横顔が気になっていたのだ。声をかけるとうなだれたように、僕の方を見上げてきた。その姿は、子供ながらに守ってあげたいと思えるくらいに小さくみえた。
「何!?」。
冷たい口調で、ただ一つ言葉を放つと彼女は、机の中からノートを取り出しテストの見直しを始めた。ななんだか悔しさを覚えた僕は、テストので唯一記憶に残っていた難問(だと思う問題)について話を始めた。(自慢ではないが、僕は勉強はそこそこできた。というより、教科書にある問題ならほとんどできた。)すると、さっきまで大事に抱え込むようにしていた不安を投げ捨て、ノートを取り出してその問題の解説を始めてきた。
不思議だった。
何が楽しいかわからないが、彼女との会話がこのまま続けばいいと思えた。勉強など、ほとんどしたことがなく、ノートなどとったことのない僕にとって、ここでの会話ほど浮世離れした感覚はなかった。たぶん、あの時は彼女が何に共感したのかもわかっていなかった。ただ、あの時の彼女が抱えた不安と弱さが、ひどく愛おしかった。今覚えば、彼女の横顔には女性としての魅力を備えていたのだろう。30分そこそこの時間、彼女が見せた横顔に一目惚れしたのだ。
それからは、僕らは授業の度に言葉を交わした。もちろん、朝も帰りの挨拶も。
学校が終わる僕はサッカークラブに、彼女は学習塾に通うため、それぞれの道に足早に帰っていくことが多かった。しかし、時間があるときは図書室や、みんなが帰って空席となった窓際の席に座り、宿題に手をつけた。それは、一人では感じられなかったなと、確かな充実感となって僕を魅了していた。
僕は勉強だけでなく、時間があるときには将棋を教えた。そして、彼女からはチェスを教わった。小さかったが、そんな一つ一つが思い出となって積み重なっていくのが見えた。
僕らは、あのテストの日を境に始まった。だから、記念日はあのテストの日。
運動会も終わり、読書の秋だと課題図書の読書感想文に追われていた日。そして、いま隣で外の景色に心を奪われている彼女の誕生日だ。
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
電車のアナウンスが終え、徐々に席を立ち始めた人たちを横目に僕らは、手を取り合った。
焦ることはない、これから今日を一緒に過ごせるのだから。
さっき、欠伸したことは失態だったが、早起きした代償だと思って、これから挽回していこう。
電車がライン通りの定位置に停まり、この駅が終点を告げると順々に両脇の戸口が開き、人波が引きづり込まれていった。
人波が弱まり出し、新しい乗車客が入ってきたところで僕らは立ち上がり改札に向かった。
改札で肌寒い風が吹き込んでくるのを感じ、朝から吹きつかる風に秋の終わりを感じた。
隣でかよわく歩く彼女が気まぐれな風に飛ばされないように、訪れてくる冬を二人で温めるように、僕は少し背伸びして歩いてみせた。このときできる精一杯の背伸びを。
きっと、彼女はそんな姿をみていなかっただろう。
僕が彼女の気持ちを見れていなかったように。
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